トップページ > ニュース 2011年

ニュース 2011年

11月4日:文化功労者顕彰式と宮中での『お茶会』

昨年10月25日に2011年度の文化勲章受賞者と文化功労者が発表され、光栄にも、遠藤が文化功労者の一人に選ばれた。顕彰式は2012年11月4日午前に都内のホテルで行われ、午後は文化勲章受賞者と共に、宮中での「お茶の会」にまねかれた。

出典:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/11/attach/1312770.htm
http://www.news24.jp/articles/2011/11/04/07193874.html

10月:単行本『生化学者・遠藤 章』(英文)が出版

ウエブサイトで検索中に、『Akira Endo (Biochemist))と言うペーパーバックが出版されていることを知り、驚く。内容は生化学、真菌、コレステロール、日本国際賞、ラスカー賞、アレキサンダー・フレミングからなる。

Iosias Jody(編): Akira Endo (Biochemist) [ペーパーバック単行本] (リンクペーパーバック: 108ページ 出版社: Cred Press   発売日: 2011/10

9月:薬学専門書に写真入りで紹介

カルミレ・ウエルムス編の「実践薬化学」改訂3版(Carmille G. Wermuth(Ed.):The Practis of Medicinal Chemistry 3rdEdition。Elsevier, 2008)。この分厚い専門書の改訂3版が2008年に出版されていたことを最近知って驚いた。気がつかなかったのは写真を載せる件で何の連絡もなかったから。この本の第1章(A history of drug discovery)(pp3-62)では薬の発見に貢献した約70名の科学者が顔写真つきで紹介されている。この中に登場する日本の科学者は、1909年にパウロ・エーリヒの下に留学中の秦佐八郎博士と遠藤の2人だけである。下の写真(pp36-37)は左からヒョドール・リネン(1964年ノーベル生理学・医学賞)、遠藤、マイケル・ブラウンとジョセフ・ゴールドスタイン(2人は1885年ノーベル生理学・医学賞)、パウロ・エーリヒ(1908年ノーベル生理学・医学賞)。

6月17日:事務所の移転

6月17日にバイオファーム研究所が三鷹から下記に移転しました。これまでと同様に、よろしくお願い致します。

〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16
東京農工大学産官学連携・知的財産センタービル2F
特別栄誉教授室
電話&ファックス:042-388-7259
E-mail:aendo@cc.tuat.ac.jp aendo@biopharm.co.jp
URL: http://endoakira.com/

5月3日:米国科学アカデミー外国人会員に選出される

5月3日に、米国科学アカデミー(NAS)の外国人会員に選出されたとの知らせを受けた。本年は72人の新会員と15カ国から18人の外国人会員が選出され、日本からは、遠藤と山中伸弥京都大学iPS細胞研究所長が選らばれた。
http://www.tuat.ac.jp/news/20110511223124/index.html
http://www.agri.tohoku.ac.jp/agri-data/topics/kd506l0000001ijt.html

NASは、1863年3月に非営利の民間研究諮問機関として米国で設立され、2,113人の会員と418人の外国人会員がおり、200人近くがノーベル賞を受賞している。日本人の会員はノーベル物理学賞の南部陽一郎、小柴昌俊、江崎玲於奈、同化学賞の福井謙一、野依 良治を含め計39名(今回の2名を加えると41名)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E7%A7%91%E5%A%A6%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%BC

東日本大震災の影響で春の学会が軒並み中止に

3月11日の東日本大震災の影響を受けて、3,4月に予定していた下記4件の講演が中止になった。

4月8日開催の第28回日本医学会総会2011東京(東京国際フォーラム)の特別講演「コレステロール合成とスタチンの発見」

3月26日開催の日本化学会第91春季大会「市民講座」で予定していた講演「史上最大の新薬スタチンはこうして生まれた」

3月23日開催の化学工学会第76年会の特別講演「コレステロール低下剤(スタチン)の発見と開発」

3月16日開催の韓国ソウルでのGreen Cross R&D Workshop での特別講演「Discovery and development of the statins」。

革新の60年

今年はキュリー夫人のノーベル化学賞受賞から100年にあたり、国連が国際化学年と定めた。これにあわせ、英国王立化学協会(Royal Society of Chemistry)発行の”Chemistry World” の2011年3月号に、「革新の60年」(60 years of innovation)という論文が掲載された。国際化学年を記念して、ジェイムズ・M・クロウ(James M. Crow)が、過去60年間に化学者が成した発見と開発の中から年代毎に1件(計6件)を選んで紹介した内容である。その概要を紹介する。
http://www.rsc.org/chemistryworld/Issues/2011/March/60YearsOfInnovation.asp

1950年代:ラジオカーボン・デーティング(放射性炭素による年代決定)
米国の化学者ウィラード・リビー(Willard Frank Libby)は炭素14を用いた放射性炭素年代測定法を開発し、1960年にノーベル化学賞の受賞者となった。

1960年代:シリコンチップ
シリコンチップの最初の開発者は化学者たちではないが、多くの化学的躍進によって、シリコンベースの集積回路の開発が可能になった。化学者たちのシリコンとその材料特性の研究が、この分野の数々の発展を促すことになった。超高純度半導体の製造方法の発明から、半導体特性の調整による他成分の原子への注入に基づく原料のドーピングに至るまで、最初に主導的役割を果たしたのは化学者たちだった。1960年代、これらの成果によって、最初の実用的なシリコンチップが誕生した。

1970年代:スタチン薬
1971年、日本の化学者、遠藤章は、当時発見されたばかりの冠動脈疾患の危険因子「血中コレステロール」を下げる化合物を見つけるという、意欲的な取り組みを開始した。それから40年後、何千万もの人々が、遠藤が発見したスタチンとして知られる薬物群の恩恵を受けることになった。今後も何百万もの人々がこの薬剤を使うことになろう。「スタチンの発見は、おそらく抗生物質の発見に匹敵するだろう」と英国ロンドンのクイーンメリー大学ウルフソン予防医学研究所(Wolfson Institute of Preventive Medicine at Queen Mary University)長ニコラス・ウォルド(Nicholas Wald)は言う。「ペニシリンの物語は有名で、アレキサンダー・フレミングの名はよく知られているが、遠藤章はそうではない。彼は創薬化学の陰の英雄なのだ。」

1980年代:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
偉大な科学的発明の多くがそうであるように、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)発見の陰には、1つの物語があった。1983年4月のある日、夜半に米国カリフォルニアを車で走っていたカーリー・マリス(Kary Mullis)は、後のPCRの基盤となる技術を思いついた。それから10年後、彼のこの発見はノーベル化学賞を受けることになる。

1990年代:抗レトロウイルス薬
レトロウィルスであるHIVの治療で、画期的なサクセス・ストーリーとなったのが、プロテアーゼ阻害薬の開発である。これは合理的な薬剤設計の1例である。1980年代の半ばに、HIVプロテアーゼを薬剤標的とすることの正当性が証明されたのを受けて、1980年代の終わりまでに、いくつかの研究チームがX線の結晶構造を発表した。この酵素の構造と機序の研究に基づき、1990年代に画期的なHIV治療薬が開発された。

2000年代:薄膜太陽電池
2000年代になってから、代替エネルギーが容赦ない政治課題として浮上する中、価格が適正であれば、これを補完することのできる、安価で効率的な新種の太陽電池の性能向上が急務になった。米国のカリフォルニア大学バークレー校で集光性のナノマテリアル研究に取り組むアリ・ジャベイ(Ali Javey)によれば、「太陽電池は全て費用次第」である。当初約1,700ドル(現在の為替レートで1,060ポンド)だったその単価は、現在はワット当たり約3ドルになっており、さらに下がり続けている。米国政府は、国内の経済刺激策の一環として、ソーラー技術研究に多額を投じており、2015年までには、化石燃料による発電と同程度に、配電網に組み込んでいきたいとしている。そのためには、この技術の改良により、さらにコストを下げる必要がある。

30年を共にした秘書の逝去

1981年から30年間秘書として、また1992年からの19年間はバイオファーム研究所の代表取締役社長として、一緒に仕事をしてきた竹田美智子さんが2月22日未明に、入院中の千葉大学病院で逝去された。67歳でした。2007年秋の検診で胆管に腫瘍が認められたが、手術で回復し、職場に復帰した。しかし、2010年10月に再発が認められ、以来入退院を繰り返していた。2月25日の通夜と同26日の告別式(三鷹法専寺)には、250名の方々が参列された。皆さまに重ねてお礼申しあげたい。
http://cholestero.jugem.jp/
コレステロール・ニュース:竹田美智子さん逝く(2011.03.28 Monday)

子供たちよ夢抱け

2月7日、秋田県大仙市教育委員会の依頼で、同市内の中学生と小学5、6年生を対象とする「環境教育講演会」で講演。
以下は朝日新聞の報道から
遠藤さんは「一生懸命やって失敗しても悔いにはならず、財産になる」と話した。 大曲南中学校の佐藤健人君(14)は「身近にある青カビから薬ができたなんて驚きました」と話していた。講演会は環境教育の一環として、大仙市教育委員会が主催した。
http://www.szkids.com/uncategorized/%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%82%88%E5%A4%A2%E6%8A%B1%E3%81%91-%E9%81%A0%E8%97%A4%E7%AB%A0%E3%81%95%E3%82%93%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E.html

スタチンにはどんなメリットがあるのか?

”Proto Magazine”という、マサチューセッツ総合病院から出ているという出版物の、2011年冬版にティモシー・ガウアー(Timothy Gower)が書いた「スタチンにはどんなメリットがあるのか?」(What か might do for you?) というレビューが載った。ガウアーからは昨年末にEメールで3回取材があった。私からの取材に関係する冒頭と末尾の2か所の邦語訳を紹介する。欧米の人たちにはユーモアがある。
http://protomag.com/assets/statins-change-of-heart

遠藤章は自分の出番を待ちながら、部屋を見回した。獣医から科学者まで、そうそうたる人々が集まっていた。1977年のこの日、フィラデルフィアで開催された脂質代謝関連医薬に関する第6回国際シンポジウムに出席するため、彼は東京から来ていた。この日は青緑色のカビに含まれるコンパクチンという分子の発見について報告することになっていた。遠藤は大学時代、アレキサンダー・フレミングが、カビの生えた培養皿にペニシリンを発見したことに感銘を受けた。ペニシリン等の抗生物質は、様々な酵素の働きを阻害する能力があることを知っていた遠藤は、カビを調べれば、コレステロール値を高めるHMG-CoA還元酵素の抑制物質が見つかるのではないかと考えた。当時はコレステロールと心臓発作・卒中との因果関係が明らかにされたばかりだった。

フランス人科学者が、コレステロール低下薬「フィブレート」についての発表を終え、遠藤章は演台に立った。すると聴衆は次々と部屋から出ていった。残った30人そこそこが、「HMG-CoA還元酵素の拮抗阻害剤ML-236 Bが、コレステロール代謝に及ぼす影響」と題した彼の発表に耳を傾けた。発表が終わっても、誰も質問しようとしなかった。

遠藤は意気消沈して会場を後にしたが、日本に帰る前に、テキサス大学サウスウェスタン医学センター(Texas Southwestern Medical Center)に立ち寄った。このセンターの研究所に勤務するマイケル・ブラウン(Michael Brown)とジョセフ・ゴールドスタイン(Joseph Goldstein)に招かれていたのだ。彼らはコンパクチンに関する遠藤の論文をいくつか読んでいた。ブラウンとゴールドスタインはマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のインターン時代に出会い、コレステロール代謝に関する画期的な研究をすることになった。その大きな成果の1つとして、彼らは1973年に血液中の「悪玉」コレステロールを除去する低密度リポプロテイン(LDL)と呼ばれる受容体を発見した。遠藤はこの2人の科学者との共同研究の合意を取り交わした。そしてこの共同研究により、コンパクチンの薬効はHMG?CoA還元酵素の阻害に留まらないことが実証されることになった。フィラデルフィア会議の聴衆はコンパクチンに全く興味を示さなかったが、製薬会社の態度は違った。そして遠藤のHMG-CoA還元酵素の発見は、「スタチン薬」と呼ばれる薬剤の開発を促すことになった。この薬の誕生から、来年で25年になる。

オー・ヘンリーの小説に匹敵する「意外な結末」として、スタチン第1号の発見者は、2000年の健康診断で、自身のLDL値が高くなったことを知った。遠藤は医者から「心配しなくていいですよ。コレステロールを下げる特効薬を知っていますから」と言われた。しかし、実に意外なことに、遠藤はスタチン処方を断ったという。彼のLDL値は「若干高くなっただけ」なので、「運動量を増やしてコレステロールを管理することにした」そうだ。しかし結局は自分の薬を飲んでいるという。「運動してもあまり効果がなかった」ため、今はスタチンを服用しているらしい。「でも、その商品名を言うのは、止めておきましょう」と、彼からのEメールに書かれていた。

子供たちに科学の面白さを伝える本の出版

1月27日、訪日中のカリフォルニア大学(バークレー校)のライリー教授(Lea W. Riley)が感染研の鈴木里和医師の案内で来訪。ライリーらは科学者を目指す12-20歳の少年たちとその両親および教師に、科学の面白さと重要性を理解してもらう本”Young Scientist Journeys”の出版(3巻シリーズ)を企画し、その第1巻が昨年出版された。残りの2、3巻は今年中に出版の予定。遠藤は依頼を受けて第3巻に寄稿した。ライリーの来訪は遠藤の寄稿に対するお礼のため。第1巻にも遠藤に対する人物評と遠藤の寄稿文が掲載されている。写真上は来訪したライリー、鈴木と遠藤。下の写真は出版された第1巻(左)と第2,3巻(中と左)の表表紙。
http://www.butrousfoundation.com/ysjournal/?q=node/343

このページのトップヘ